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福島地方裁判所 平成3年(わ)23号 判決

国籍

朝鮮(外国人登録番号〈A〉No.〇〇一一二七一三一)

住居

福島県郡山市開成二丁目五番九号

会社役員

林聖寿こと林一一

一九四七年六月一二日生

右の者に対する所得税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官原秀樹出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年六月に処し、

併せて罰金四〇〇〇万円を科する。

右罰金を完納することができないときは金八万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から五年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、福島県郡山市桑野三丁目二〇番二八号あらいや開成ビル一階ほか七か所において、「ゲームプラザロッキー」等の名称でゲーム場を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、右各店の売上げを除外して仮名及び家族名の預金をするなどの方法により所得を秘匿した上

第一  昭和六一年分の被告人の実際総所得金額が二七六二万六五六六円あったのにかかわらず、所得税の法定納期限である同六二年三月一六日までに、同市堂前町二〇番一一号所在の所轄郡山税務署の同税務署長に対し、所得税確定申告書を提出しないで、右期限を徒過させ、もって不正の行為により、同六一年分の所得税額一〇〇一万七〇〇〇円を免れ

第二  同六二年分の被告人の実際総所得金額が九三一二万四六一二円あつたのにかかわらず、所得税の法定納期限である同六三年三月一五日までに、前記郡山税務署の同税務署長に対し、所得税確定申告書を提出しないで右期限を徒過させ、もって不正の行為により、同六二年分の所得税額四七二七万八〇〇〇円を免れ

第三  同六三年分の被告人の実際総所得金額が一億一八一八万六四二四円あったのにかかわらず、所得税の法定納期限である平成元年三月一五日までに、前記郡山税務署の同税務署長に対し、所得税確定申告書を提出しないで右期限を徒過させ、もって不正の行為により、同六三年分の所得税額六〇四八万四五〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

冒頭事実及び判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官及び大蔵事務官に対する各供述調書

一  林聖浩の検察官に対する供述調書

一  大蔵事務官松澤稔作成の銀行調査書、借入金調査書、事業主貸勘定調査書

一  大蔵事務官後藤五郎作成の現金調査書、前渡金調査書、建物調査書、建物付属設備調査書、車両調査書、器具備品調査書、土地調査書、有価証券調査書、敷金調査書、権利金調査書、電話加入権調査書、預り金調査書、未払金調査書、未払税金調査書、預かり源泉税調査書、事業主借勘定調査書、事業専従者控除調査書、利子所得調査書、雑所得調査書、譲渡所得調査書

一  検察事務官作成の電話聴取書及び報告書

判示第一の事実について

一  大蔵事務官松澤稔作成の脱税額計算書(昭和六一年分)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官松澤稔作成の脱税額計算書(昭和六二年分)

判示第三の事実について

一  大蔵事務官松澤稔作成の脱税額計算書(昭和六三年分)

(法令の適用)

判示各所為 いずれも所得税法二三八条一項、二項

併合罪加重 刑法四五条前段、懲役刑につき四七条本文、一〇条(犯情により最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重)、罰金につき同法四八条一項、二項

換刑処分 同法一八条

刑の執行猶予 同法二五条一項

(量刑の事情)

本件は、前示認定のとおり、個人企業を営む被告人が、昭和六一年分ないし同六三年分の所得税額は、各年につきそれぞれ一〇〇一万七〇〇〇円、四七二七万八〇〇〇円、六〇四八万四五〇〇円であるのに、売上を他人や架空名義のいわゆる特別定期預金として預金するなどの不正手段により所得を秘匿し、全く申告をすることなく右各年の所得税を各免脱したという、逋脱率一〇〇パーセントの所得税法違反の事犯である。その動機は、法に触れるおそれのある営業の刑事訴追を回避し、経営の危機に備えて資金を蓄えんがためというもので、結局は自己の生活設計のためというに過ぎず、特に酌むべきものもなく、納税の不公平感を助長しひいては国民の納税意欲の低下による申告納税制度の根幹を危うくするものとして、この種脱税事犯に対する国民の評価の極めて厳しい状況に徴すれば総じて犯情は芳しからず、その刑事責任を軽視することは許されないところである。

しかしながら、本件犯行が発覚した後においては、昭和六一年分及び同六三年分につき各確定申告をなし、これによる脱税額の分割納付に務めていること、すなわち、右各申告に基づく納税額のうち、本件の昭和六一ないし六三年の三年度分について見れば、所得税本税の合計は一億一七七七万九五〇〇円、同重加算税の合計は、四六六〇万三五〇〇円、同延滞税の合計は昭和六一年分と同六二年分で九四三万七五〇〇円(同六三年分につき未確定)であるが、市民税・県民税・その延滞金合計の昭和六二年分三九二万七〇〇〇円、同六三年分一五一七万九八〇〇円をも加えると、その総計は一億九二九二万七三〇〇円となるところ、被告人は、昭和六一、六二年分の各所得税本税合計五七二九万五〇〇〇円と延滞税合計額の一部七二万二〇〇円を本件公訴提起以前である平成二年七月三〇日までに、同じく昭和六三年分の所得税本税を平成二年八月三一日から各月二〇〇万円宛(平成三年六月四日分からは各一〇〇万円)継続して分納し、市民税・県民税・その延滞金の分割納付に併せて以後の本税未納分の分割納付をなし、これに引き続き重加算税合計額、延滞税合計の残額の分割納付をなすべく、国税税務当局及び地方税担当者と折衡し、了承を得ているものと窺われるのであって、当然のこととはいえ、そこには被告人なりに過去の非を精算しようとするものがあると認められることや、本件収入の源であったゲーム場経営を廃業し、喫茶店経営に転じていること、また極めて当然のことながら被告人は本件違反を深く反省していること、被告人にはこれまで特に問題視すべき前科のないことなど、被告人のため酌むべき事情も認められ、これらの情状及びこの種事犯に対する量刑の実情、刑事政策の理念に鑑みると、この際、被告人の本件非違を厳しく指弾する必要のあることはもとよりであるとしても、今回に限り懲役刑についてはその執行を猶予するのが相当であると判断されるから、主文の掲記の刑を量定するものである。

よって主文のとおり判決する。

(裁判官 井野場明子)

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